漠然と使われている「組織」という言葉ですが、これを厳密に定義したことがある方は少ないのではないでしょうか。組織という言葉を正確に理解することによって、思考のツールを手に入れることができます。
「組織」を正確に理解する
組織という言葉は抽象的で、皆が納得する共通の定義というものは、実はありません。つまり、複数の定義が混在している状況です。
一般的によく引用される定義はバーナードのもので、私もこの定義と成立要件を起点に物事を考えます。
【定義】
「組織とは、意識的に調整された2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステムである」
【成立要件】
「共通の目標を有し、目標達成のために協働を行う、何らかの手段で統制された複数の人々の行為やコミュニケーションによって構成される」
- 1. 共通目的(common purpose)
- 2. 貢献意欲(willingness to serve)
- 3. 意思疎通(communication)
ここから、組織には2人以上の人間と3要件が必要ということになります。
この3要件が組織を組織たらしめているわけですから、組織生じる問題の多くはこの3要件の機能不全と捉えることができます。
目的が明確でなく何を達成すればよいのかわからない。複数の人間が力を合わせて目標を達成しようとする貢献意欲(つまりやる気ですね)がなくてきぱき動かない。成員間のコミュニケーションが成立しておらず命令系統の分断や分業・協業に不効率が生じている。
機能不全のパターンは種々多様なものがあります。一つひとつの要件について深く考察することは意義のあることですが、それは別の機会に譲りましょう。
なお、他にも組織の定義はあります。いくつかご紹介します。
「ある目的を達成するために、分化した役割を持つ個人や下位集団から構成される集団(広辞苑)」
「特定の役割・機能をもつ人々が集まって、一つの秩序ある集団を構成すること(明鏡国語辞典)」
「1人の人間の力では実現できないような困難な目標を達成しようとするときに生じる複数の人間の協同(経営学用語辞典)」
組織の3要件
共通の目的
~理念~
組織を組織たらしめている3要件の中の共通目的について詳しく見ていきましょう。
目的とは「組織の成員が手に入れよう、実現しよう目指すものやことがら」をいいます。
たとえば、私達は共通の目的を「組織の利害関係者を幸せにすること」と置いています。
まず抽象的な共通の目的を置き、組織の成員に理解してもらうことにより、われわれが何のために存在しているのか、どうあるべきかが共有されます。そこから一体感が生まれ、何をするべきかが導かれ、組織らしい組織に一歩近づいていくわけです。
しかし、具体的に何をやればいいかについて考えると、この目的では抽象的過ぎて、多くの行動を含んでしまいます。また、本来達成すべきことには、期限が付されるものですが、これには期限が付されておりません。
しかしそれでよいのです。
このように「組織がどうあるべきかという最も根本となる抽象的な考え方」を「理念」と呼びます。理念は期限が付されておらず、したがって永遠を前提としています。
すなわち、理念は「永遠で根本的な目的」と言い換えることができます。
各種調査で「理念の浸透度」を調査したいとご要望される企業様は、理念の浸透度が組織を組織たらしめることを良く理解されているのでしょう。逆にだからこそ浸透しないことに苛立ちがあるのかもしれません。
なお、理念は「存在意義」「使命」「社是」などと言われたりもしますが、大体似たようなものです。ときにビジョンと混同される場合もあります。
理念にはいろいろありますが、こんなサイトがありますので参考にしてみてください。
http://www.kayac.com/vision/philosophy
ひとつ見てみましょう。
電通
Good innovation
「その手があったか」 と言われるアイデアがある。
「そこまでやるか」 と言われる技術がある。
「そんなことまで」 と言われる企業家精神がある。
私たちは3つの力でイノベーションをつくる。
人へ、社会へ、新たな変化をもたらす
イノベーションをつくってゆく。
この企業では、「イノベーションをつくり人と社会に新たな変化をもたらす」ことを掲げています。
そのために「その手があったか」等、驚きを伴う3つの手段を用いるというわけです。
組織の成員はこれを共有しなければなりません。ある企画を考える際、どこかで見たことのあるものは排除されるはずです。イノベーションを具現化させた者は褒められるはずです。採用においてもこの理念に近い者を採用しようとするはずですし、人事制度もこの理念を再生産するようなものになっているはずです。
これをどのレベルまで徹底できるかが良い組織かどうかの分かれ目となるのです。
~ビジョン~
組織が掲げるビジョンとは、まるで見てきたかのように語れる未来の映像あるいはイメージのようなものです。理念を突き通した結果、このような未来になっている。なっていて欲しいという絵です。
理念と異なりビジョンには、3年後、5年後、10年後、30年後と期限が付されることが多く、また目に見えるように表現すべきもので、それゆえ理念よりは具体的です。
ビジョンには、個人のビジョン、組織のビジョン、社会のビジョン…とどの範囲で設定するかという自由度がありますが、たいていは社会や国をイメージしその中で私達の組織はこうなっている――と考えることが多いようです。
将私達の事業が発展することにより、このような社会を実現していきたい。そのとき私達はこのような位置を占めていたい。こんなことをビジョンに描くわけです。
ビジョンは現実から乖離した荒唐無稽なものではなく、テクノロジー、政治・法律、マクロ経済、自然環境、世界情勢などの外部環境変化を要件としなければなりません。かといって、外部環境変化に対して受身であってはならず、自ら未来、ビジョンを創造していく心構えが必要です。現在持っている強みも考慮する必要があるでしょう。
楽観悲観のバランスを取るため、バッドシナリオとグッドシナリオを用意するべきでしょう。
私達リデザインは、10年後、日本国において理想の組織が増えており、その組織に携わるもの皆が正の感情に満たされているビジョンを持っています。
現在ちょっとした兆しに過ぎなかったものが、大きな流れになり、甚大な影響を及ぼすことがあります。例えば人口の継続的減少は、わが国の歴史上初めてのことです。その時マクロ経済はどう変わっていくのか。組織はどうあるべきか。人々の働き方どうなるのか。様々な要素を検討していかなければなりません。
もしかすると、このトレンドはわが国の組織に甚大な不利益をもたらすかもしれません。しかし、どのような中でも私達は、皆が正の感情に満たされている組織をイメージしなければなりません。
「そんなの無理だよ」といわれてもかまいません。今現在私達が賞賛すべき企業組織はたくさんあります。私達のビジョンの種はそこにあり、私達はそれらの企業への賞賛を惜しみません。
ビジョンは具体的であればあるほど良く、リーダーはこのビジョンに強いリアリティを感じていなければなりません。
たとえば、卑近な例で恐縮ですが、過去にビーフシチューを食べたことのある人が、ビーフシチューを作ろうとする際、頭の中に明確なイメージがなければなりません。ビーフシチューのイメージ(=ビジョン)なしにビーフシチューなど作れるわけがありません。
なお、東郷平八郎がイギリス留学時に食べたビーフシチューをが作ろうとして、シェフにイメージを伝達してつくらせたもの料理が肉じゃがだそうです。
この場合イメージの伝達方法に問題があるのと、東郷平八郎が作成過程を見ることができなかったことが問題なのでしょう。この話はリーダーシップ論に繋がっていきます。
ちょっとしたところに組織論のヒントがあるものですね。
~戦略・中期経営計画~
理念とビジョンが決まり、そのような未来を作っていきたいかその中で我々がどのような存在であり続けたいかが明らかになりました。次は、そのために行動をしなければなりません。
フランクリン・コヴィー博士はその著書「7つの習慣」で次のように述べています。
「すべてのものは二度つくられる。」
すなわち、まず頭の中に「こういうものをつくろう!」という知的創造があり、それを実現するために物的創造、つまり具体的・物理的行動がなされるというわけです。
理念・ビジョンは前者の知的創造、戦略・中期経営計画・年度目標・組織目標・個人目標は物的創造をどのように行うかにかかわるものです。
組織の要件として一口に「共通目的」といっても、実は時間軸と範囲をどのように設定するかによって、かくも多様な目的が存在することに留意してください。それぞれが十分に機能しないとき、様々なトラブルが発生するのです。
さて、戦略の話です。
私の好きな元GE社CEOジャック・ウェルチは次のように述べました。
「戦略なんて限られた資源をどう割り振りするか、それだけのことだ。」
ハードボイルドですね。
これは、戦略の本質が、自社が最も優位に立てる分野に経営資源(人・もの・金・情報など)を集中させることを意味しています。つまり選択と集中です。企業が投下できる資源には限りがありますので、ビジョンを実現できるだけのサスティナビリティを獲得するためにも、競争に勝ち続けなければなりません。
戦略は語弊を恐れず言ってしまうと「なるべく楽して勝つための計画」です。
戦略は3年~5年単位で設定される中期経営計画の土台となるべきものです。もちろん中期経営計画は単年度計画に落とされ、単年度計画は、各職能別組織の計画に落とされ、さらに個々人の目標にブレイクダウンされていきます。
戦略がただの単年度の数値計画の集まりになっていたり、実現可能性のない楽観的過ぎる計画になっているという過ちが多く見受けられます。
戦略の話はマーケティングの話と切っても切れない複雑なものですので、細かい話は戦略論やマーケティングに譲ります。
最後にウェルチ氏の名言で。
「すべての人にすべてのものを、なんて無理だ。たとえいかに大きな会社であろうと、どんなに大きな財布を持っていようと。」
「市場での競争は戦うことが目的ではない。戦う以上、勝つことが目的である。勝てなければ撤退する。」
貢献意欲
組織の3要件、二つ目は貢献意欲です。
貢献意欲とは、組織目的に対して貢献しようとする意欲、簡単に言うと、モチベーションのことを言います。
貢献意欲は、協働意欲、モチベーション、やる気、士気、モラール、動機付け、忠誠心などいろいろな言葉で表現されますが、全ては組織成立要件の一つの言い換え、あるいは派生形と考えていただいて問題ないと思います。
貢献意欲をどう向上させるか。これは組織の永遠のテーマなのではないでしょうか。弊社に寄せられるご相談もこれに関わるものが多くを占めます。
モチベーション理論はいくらでもありますが、実践的組織運営において重要なのは、モチベーションを向上させる方法です。
モチベーションを向上させる方法を思いつく限り一通り挙げてみましょう。
- 金銭・物
- 仕事の面白さ
- 魅力的な仲間(同僚、上司)
- 承認
- 表彰
- 魅力的理念、使命、ビジョン
- 挑戦的な目標(成功の喜び)
- ゲーミフィケーション
- 魅力的な経営者
- 見通し
- 罰
など
これらの一つ一つについて、様々な具体的手段があります。
一口に金銭・物といっても、人事制度(評価制度、等級制度、報酬制度)がどうあるべきかという問題とも関わってきますし、福利厚生やストックオプションなどのバリエーションもあります。
一口に承認といっても、「誰が誰をどのようなタイミングでどのように承認するのか」というバリエーションがあります。例えば「上司が部下を会議の時に皆の前でほめる」、「上司が部下を評価面談の際に営業行動を具体的に評価する」などいろいろなパターンが考えられます。
協働意欲、モチベーションの問題については非常に大きなテーマですので、これは独立したカテゴリで詳しく検討してきたいと思います。
コミュニケーション
組織の3要件、三つ目はコミュニケーションです。
コミュニケーションとは、対面での言葉、文章、ノンバーバルランゲージなどによる情報や感情のやり取りですが、組織目的も情報のひとつですので、これを伝達しなければそもそも共有できません。
モチベーション(貢献意欲)を向上させるツールには「承認」や「表彰」がありますが、これらもコミュニケーションを前提としています。
また仮に目的を共有し、それに向かう意欲があっても、コミュニケーションがなければ組織は成立しません。一人ひとりに割り当てられた仕事は最終的に一つの総体に統合されますので、その際調整が必要になります。
そもそも仕事の割当自体がコミュニケーションによってなされるものですね。
コミュニケーションの量や方法は、事業の特質、戦略、組織のあり方、個々人の習熟度などによって変わってきますが、2人以上の組織では間違いなく必要となってきます。
コミュニケーション能力は採用時においても、主要な要件とされ、採用担当者はこの能力を重んじ、また就職活動生がこの能力をアピールするのも、組織の3要件の一角をなすものだからです。
コミュニケーションの不活性は、風通しの悪さ、職場活性度低下、理念浸透度低下、部門間連携のまずさ、モチベーション低下、メンタルヘルス不調といった症状として顕在化します。
コミュニケーションは、理念や目標を上から下に伝達したり、また現場の顧客情報を上に上げて全社戦略に活用するような縦のやり取りに加えて、休憩室での会話からアイデアを得たり、社内のベストプラクティスを全社に共有したり、悩みを聞いて解決策を授けたりなどの横のやり取りもあります。斜めもありますし、内外のコミュニケーションもあるでしょう。
組織は常に外界に対して適応しなければなりません。その際、情報が滞るということは外界への適応可能性が減ることを意味し、ひいては組織の衰退を招きます。
コミュニケーションを活性化させるということは、組織を活性化させるということなのです。
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